「私には子どもがいるから大丈夫」
「親族がいるから、亡くなった後は誰かが何とかしてくれる」
そう思っている方は少なくありません。
家族と疎遠になっている方や、身近に頼れる人がいないおひとりさまの場合、家族がいることと、いざという時に頼れる人がいることは同じではありません。
国が2024年に策定した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」でも、身寄りがない方だけでなく、家族がいても身近に頼れる人がいない方について、意思決定や生活を支援する仕組みの必要性が示されています。
これは決して、特別な人だけの問題ではありません。
家族が相続放棄したら、病院代や介護費はどうなる?
ここも、誤解されることの多いところです。
家族が家庭裁判所で正式に相続放棄すると、その人は法律上、原則として「初めから相続人ではなかった」ものとみなされます。
そのため、正式に相続放棄した家族が、亡くなった方の未払金を相続人として支払うわけではありません。ただし、その家族自身が保証人や契約当事者になっている場合などは別です。
一方で、相続放棄をすれば、亡くなった方の借金や未払金そのものが消えるという意味でもありません。
例えば、次のような亡くなった方自身の債務は、相続財産を清算する際の対象になる可能性があります。
- 入院費
- デイサービス利用料
- 介護サービス利用料
- 保険外サービス利用料
- 家賃
- その他の未払金
相続人が全員相続放棄したら、銀行のお金は銀行のものになる?
これも違います。
相続人がいなくなったからといって、亡くなった方の預金が銀行の利益になるわけではありません。
必要に応じて家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任します。清算人は、亡くなった方の財産を確認し、債権者などへの支払いと必要な清算を行います。特別縁故者への財産分与などが行われる場合もあり、最終的に残った財産は国庫へ帰属します。
病院や介護事業者など、亡くなった方に対する債権を持つ人も、利害関係人として相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てられる場合があります。
ただし、相続人がいなくなっただけで、自動的にすべての清算が始まるわけではありません。申立てがされず手続きが進まなければ、預金や財産が未整理のまま残ることも考えられます。
だからこそ、亡くなってから誰かが何とかするのではなく、生きている間に準備しておくことが大切なのです。
「行旅死亡人になる」という話とも少し違います
「家族が遺体を引き取らなかったら、行旅死亡人になるの?」と心配される方もいます。
しかし、家族が連絡に応じないからといって、直ちに「行旅死亡人」になるわけではありません。身元が判明していても、火葬や埋葬を行う人がいない場合があります。
そのような場合、墓地、埋葬等に関する法律第9条では、埋葬または火葬を行う人がいない、または判明しない場合には、死亡地の市町村長が行うことが定められています。
つまり制度はあります。でも、「行政が最終的に対応してくれるから、何も準備しなくても大丈夫」ということではありません。その前後には、たくさんのことがあります。
人が亡くなると、これだけの「誰がするの?」が発生します
例えば、生きている間にも次のことがあります。
- 病院からの緊急連絡を誰が受けるのか
- 入院時に必要なものを誰が自宅から持ってくるのか
- 医師からの説明を誰と一緒に聞くのか
- 入院費や介護費をどう支払うのか
- 自宅の鍵を誰が管理するのか
そして亡くなった後には、さらに多くの「誰がするの?」が発生します。
- 死亡の連絡を誰が受けるのか
- 葬儀や火葬をどうするのか
- 病院や施設の未払金をどうするのか
- 賃貸住宅の退去をどうするのか
- 家の中の荷物をどうするのか
- 電気・ガス・携帯電話などをどうするのか
- 飼っている犬や猫を誰に託すのか
- 遺骨やお墓をどうするのか
必要なのは「身元保証」だけではありません
「おひとりさま対策」というと、身元保証人を用意すれば解決するように思われることがあります。でも、生活全体を支えるには、身元保証だけでは足りません。
元気な時
生活相談、将来の希望の確認、緊急連絡先の整理
少し支援が必要になった時
通院同行、買い物、生活支援、行政窓口への同行、必要な情報や書類の整理
入院・施設入所時
入退院支援、必要物品の準備、医療機関との連絡、施設との調整
判断能力が低下してきた時
成年後見制度や財産管理などについて、必要に応じて適切な専門職へつなぐ支援
人生の最終段階
ACP(人生会議)や、どこでどのように過ごしたいかという意思の確認
亡くなった後
死後事務委任契約等の契約内容に基づく、葬送に関する手配・連絡、各種契約の終了に関する支援、住居・家財整理等の手配
※申請代理など専門資格が必要な業務は、適切な専門職につなぎます。死後の支援内容は、契約内容および担当する専門職との確認によります。
必要なのは、このような時間の流れに沿った支援です。国の「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」でも、身元保証だけでなく、日常生活支援や死後事務などを含めた支援が整理されています。
「家族がいるから大丈夫」ではなく、「誰が動くのか」を決めておく
家族と疎遠な方や、身近に頼れる人がいない方にとって、大切なことがあります。
問題は、家族がいるか、いないかではありません。
いざという時に、自分の意思を知っていて、必要な時に動いてくれる人がいるか。そこが大切なのだと思います。
家族関係には、それぞれ事情があります。遠方に住んでいることも、高齢のきょうだいしかいないことも、子どもと疎遠になっていることもあります。「迷惑をかけたくない」と思っている方もいます。
だから、家族だけにすべてを背負わせるのではなく、必要なことを、必要な専門職や支援者とあらかじめ決めておく。そんな準備が、これからますます必要になると感じています。
私たちが目指したい「おひとりさま支援」
私たちが目指しているのは、「身寄りがない人だけのサービス」ではありません。
家族がいる方も、いない方も。家族を頼れる方も、頼れない方も。
その人が自分らしく暮らし、病気になった時も、人生の最終段階になった時も、「誰に頼ればいいのか分からない」という状態を、できるだけなくしたいと考えています。
看護・介護・生活支援だけで解決できないことについては、行政書士、司法書士、弁護士など必要な専門職と連携し、それぞれの専門性と法的権限の範囲で支援することも大切です。
「何かあった時に考えましょう」ではなく、元気な時から一緒に考えておく。
それが、おひとりさま支援の大切な役割だと考えています。
元気な今だからこそ、一度考えてみてください
- もし今夜、突然救急搬送されたら、病院は誰に電話しますか?
- 入院が長くなったら、自宅のことを誰に頼みますか?
- 自分で判断できなくなった時、どんな医療や暮らしを望むか、誰が知っていますか?
- 亡くなった時、誰が病院へ来ますか?
- 葬儀や納骨、家の片付けを誰にお願いするか決まっていますか?
- 残されたペットを誰が守りますか?
一つでも「分からない」があれば、それは今から準備できることです。
終活は、亡くなる準備だけではありません。最後まで自分らしく生きるために、将来困りそうなことを元気なうちに整理しておくこと。
私たちは、そのための相談と必要な支援を、地域の専門職と連携しながら一緒に考えていきたいと思っています。
参考資料
※この記事は2026年8月時点の法令および国・裁判所等の公表資料をもとに、一般的な制度を説明しています。相続、財産管理、死後事務等の具体的な法律問題については、個々の状況により取扱いが異なります。弁護士・司法書士・行政書士等、各業務の権限を有する専門職へご確認ください。

